落部前後の噴火湾沿いの区間には、この40年近くの間に、もう幾度も訪れている。
勿論そこでは、それを意識しない画角も求め得るのだけれど、やはり海上に望む駒ヶ岳の遠望に左右されてのことである。その濃淡と光に拘れば、季節を代え時間を変えてそこに立つしかない。
野田生方の、ここでの定番ポイントになっている東野の駐車場(八雲のタクシードライヴァはそう呼んでいる)は、比較的近年に開削されたもので、以前には旧函館本線の路盤である国道5号線が川向の段丘の裾を巻いて高度を上げて往く際の切取り斜面を登って、急峻な海側段丘斜面に出て俯瞰したものであった。
1980年頃までは線路山側の通信線柱も無く、すっきりとした構図の得られたのだが、今は機関車なりの先頭車両をそれと重ならぬタイミングの取れる画角を選ばねばならない。それの重連牽引の寝台特急ともなれば、なおさら制約の強く、駒ヶ岳を無視して第三落部トンネルを抜けたあたりに画角を取るのが、ここでの定番となる所以かも知れない。
このカットの、 Voigtländer COLOR-HELIAR 75mm/F2.5 SL は、85mmでは切れてしまう画角を回避するものとして、その他には類例の無い焦点距離だけを事由に導入した。発売後間もない頃である。
M42マウントで古くからキレの良さに定評の在るレンズをニコンで使えるとなれば尚更であったし、生産も裏CarlZeissとして知られたコシナ社であれば品質は信頼して良い。
レンズマニアでは無いもので蘊蓄は語れないけれど、開放ではさすがの甘さも僅かに絞れば十分に実用範囲にあり、それはf4で完全に解消して実にシャープなエッジを再現する。f5.6ならばNikkorに劣らぬカリカリした描写である。それの青色系に傾く発色に対しての暖色は、ヌケとも相俟って、このような逆光撮影には最適でもあった。予期せぬオマケである。
設計の古いだけに、周辺光量のオチは大きくても、ディジタル処理が前提とあれば気にするでない。
付属する角型フードに象徴されるようにマニアックな製品なのだけれど、49ミリのフィルタ径を62ミリに変換してニッコールレンズ群のひとつとして実用している。
この朝は、未明から浜松温泉付近の海岸に立ったのだけれど、陽の昇ってみると駒ヶ岳の濃度が理想的に思えて、ここまでタクシーを飛ばしたのだった。
黄金に満つる海。列車は、広島貨物ターミナルからの3061列車。そこを出たのは二日前の夜である。
[Data] NikonF5+COLOR-HELIAR75mm/F2.5SL 1/500sec@f5 PLfilter Ektachrome Professional E100G (ISO160/0.5EV push)
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